2024/1/2 読書メモ『怪物に出会った日 井上尚弥と戦うということ』☆☆☆

『怪物に出会った日 井上尚弥と戦うということ』

読みました。

 

井上尚弥という名前は聞いたことあったんだけどあんまり詳しく知らなくて、「眉毛が細い人」というイメージ(失礼)しかなかった。本書のレビュー曰く、井上は「怪物」という異名を持つ日本人史上最高のボクサーで、デビュー以来無敗で世界チャンピオンになっており、パウンドフォーパウンド(全階級で体重のハンデ差がない場合に誰が最強か、みたいな称号)でも日本人として初めて1位になったこともあるらしい。井上の階級自体は軽い方みたいなので、軽量級にも関わらず外国のヘビー級のチャンピオンにも勝てるってことなのか(メイウェザーとか?よくわからん)。でもボクシングのルール上直接対決をするわけでもないみたいだし、本当のところはどうなんだろうか。

そもそも、ボクシングって階級と団体、あとタイトルがいくつもあって、誰が強いのか分かりにくいと思う。例えば同じ階級の世界チャンピオンでもWBAWBCだったらどっちが強いの?とか、WBOのライト級日本チャンピオンとIBFのフライ級東洋太平洋2位はどっちが上?とか、あと試合もノックアウトだと分かりやすいけど判定だとイマイチスッキリしないとか。これは俺のボクシング知識不足もあるのだろうが、特に団体がいくつも乱立しているのは分かりにくいと思っていた。刃牙の最大トーナメントみたいなやつにしてほしい。

しかし、そんな状況を後目に、井上はボクシング主要4団体(WBA/WBC/WBO/IBF)の統一王者らしい(しかも2階級で)。確かにそれは多少分かりやすいかもね。

 

一方で、この本の著者はいつも試合後に井上のインタビューを記事にするたび、その強さを自分が伝えきれているのか、本当は井上の強さが何も分かっていないではないかと恐ろしくて仕方がないのだという。圧倒的な強さゆえ、その強さを余すところなく表現できてるのか不安になってしまうのだ。

だったら、対戦した選手を取材していったらどうか。怪物と闘った相手に話を聞けば、その強さを伝えられるんじゃないか、という目論見で書かれたのが本書である。

井上の圧倒的強さの秘密がどこにあるのか、井上に負けた選手たち(井上はデビュー以来全勝なので対戦相手は全員敗者である)がどういう感想を述べるのか、俺も興味がわいたので購入しました。

 

なぜ井上がこんなに強いのか、読んでみて何となくわかったのは井上自身の覚悟というか、本人も圧倒的な才能を持っていることを自覚した上で物凄くストイックにトレーニングを重ねて試合に臨んでいるということだ。これだけタイトルを総なめにして連戦連勝であれば、「多少手を抜いてもいいんじゃ・・・」と常人ならなりがちなところ、お金やタイトルではなく、自分の生まれ持っている才能を出し尽くすことが目的になっているため迷いがないし、弱点も見当たらない。ボクシング選手として非の打ちどころがない一方、人間らしさもないというか、ロボットのような印象を受ける。

(競技は違うが、大谷翔平が野球に打ち込む姿勢に似ていると思う)

一方、本書で描かれいる井上の対戦相手は、才能はあるのに努力不足で井上にあっさり負け、それでも故郷の奥さんからお金の無心をされて仕方なく現役を続けたり、井上との敗戦後、それがきっかけで身を持ち崩してアルコール依存症になってしまったり、井上とのタイトル戦に最愛の息子をリングサイドに呼んだらその目の前でKO負けしてしまったりと、何とも弱く、人間っぽいエピソードがある。そして、そういう人間的な弱さが「井上に負けた原因」になっている。

確かにこういう人間の方がインタビューの被写体として面白いし、著者が井上の強さを表現するのに苦労するのも分かるな、と思いました。今度試合があったら見てみたい。